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山城ウェルネスは、なぜ地域再生につながるのか

― 歴史 × 自然 × 身体活動の“周遊力”を観光学で読み解く ―**

山城を歩く人は年々増えています。しかしその一方で、「来ているのに地域での消費が少ない」「滞在が短い」という課題も指摘されています。

そんな中で、山城ウェルネスはこうした課題を越え、地域再生につながる新しい観光モデルとして注目されています。

この記事では、山城ウェルネスが地域を元気にする理由を、観光学の視点と実際の地域データを交えて紹介します。


山城登山は「行動が増える観光」で、地域に自然と消費が生まれる

観光学では、行動(移動・体験・回遊)が増えるほど地域での消費が増えるとされます。

山城はまさに「行動が連続する観光」です。

登山口までの移動、山道の歩行、遺構の探索、景観撮影、下山後の飲食、温泉、近隣史跡めぐり…。こうした一連の行動が地域の中で自然と消費を生みます。

日本全体の登山人口は年間およそ500〜700万人規模(日本生産性本部「レジャー白書」)。
歩くアクティビティそのものが、もともと強い需要を持っています。


山城は“周遊観光”を生み、地域全体の動きをつくる

山城の周囲には、古寺、古墳、温泉、資料館、道の駅、古道などの文化資源が点在しています。

そのため、山城を訪れた人は「ここから先」に興味を持ちやすく、観光行動が横へ広がります。
この“周遊行動”は観光学的にもっとも地域経済に寄与する要素です。

地域データを見ると、この周遊ポテンシャルは明確です。

中国地方の大山(鳥取・島根)には、5〜11月だけで約6万人が登山に訪れています(環境省)。
九州の阿蘇くじゅう国立公園は地震前、年間約2,000万人が利用していました(環境省)。

自然 × 行動 × 文化の組み合わせが強い地域は、広い範囲に人の流れが生まれます。
山城もこの構造と非常に近い資源です。


別の山城へ横方向のリピートが起こる

山城ウェルネス最大の特徴は、リピートの方向性にあります。

一般的な観光地では「気に入った場所にもう一度行く」縦方向のリピートが起こりますが、
山城は 山城A → 山城B → 山城C といった“横方向のリピート”が基本です。

理由は単純で、山城は一つひとつ歴史・地形・遺構が大きく異なるため、次の山城への興味が自然と湧くからです。

山城ごとに歴史・地形・遺構が大きく異なり、
「隣の山城はどうなっているのか?」
「城主ごとに違うのか?」
という知的好奇心が強く働くためです。

城は、「本城」が単独で存在しているわけではなく、
それを支える「支城ネットワーク」というものが存在します。

岡山県津山市:医王山城城郭群 
岡山県岡山市:備中高松城と周辺陣城群
島根県:尼子十旗 
佐賀県:勢福寺城城郭群 綾部城跡城郭群 など

このため、一度山城に興味を持つと、人は広域に移動し、多くの地域で消費を生む行動特性を持つようになります。

これこそが山城ウェルネスが地域再生につながる最大の理由のひとつです。


山岳観光の弱点「日帰り化」は変えられないが、体験を多層化し価値を高める

山岳観光には「日帰り中心で滞在が短い」という構造的課題があります。
来訪者数は多くても、地域での消費が限定的になりやすいのです。

実例を見ると、この傾向は明確です。

福岡県添田町・英彦山は年間約91万人のうち 96.7%が日帰り、平均消費額は1,662円(英彦山地区 地域再生計画)。
奈良県天川村洞川地区は年間約28万人に対し、宿泊は約15%(洞川地区まちづくり計画)。

山城ウェルネスは、この“日帰り構造”そのものを変えるわけではありません。
しかし、山城には通常の登山にない 歴史学習・地形理解・関連遺構探索 といった“追加の体験レイヤー”があります。

そのため、登山よりも体験が多層化し、

  • 「次はどの山城を見ようか」
  • 「あの城の堀切を見たい」
  • 「関連する史跡はどこにある?」

と、次の行動を誘発する周遊効果が生まれます。

この“横方向の連鎖”が、結果として広域での観光消費を生み出します。


山城は通常の登山と違い、歴史・地形が体験の中心になる

通常の登山は「山頂・景色」が主目的です。しかし山城では、虎口、曲輪、堀切、石垣、物見台など、山中すべてが“歴史の教材”になります。

さらに、山城は遺構が散在するため、寄り道・探索が増え、行動数そのものが多くなる特徴があります。これは観光行動として非常に価値の高い特性です。

そして何より、山城は一つ歩くと「次の山城を見たい」という横方向の興味を生みます。
歩く・学ぶ・探すという体験が、周遊型の観光行動へ自然とつながります。


山城は持続可能で、地域と共に育つ観光資源である

山城はオーバーツーリズムとは無縁で、地域に優しい観光資源です。

人が分散し、景観への負荷が小さく、地域住民がガイド・保全に参加しやすい。
文化と自然が長期的に共存できます。

観光学では、こうした資源をサステナブル(持続可能)な観光資源と位置づけます。

山城ウェルネスは、地域と共に育ち、地域を静かに、しかし確実に元気にする力を持っています。


まとめ:山城ウェルネスは「広い範囲を動かす観光」である

山城ウェルネスは単独の巨大山城をじっくり見るのもよし、
山城から山城へ、地域から地域へと“つながり”で動く観光でもあります。

行動が増え、周遊が生まれ、滞在が伸び、
その結果として地域全体に消費と活力が広がります。

あなたの町にも、ひっそりと眠る山城があるかもしれません。
週末の小さな一歩が、地域の未来を静かに変えていくはずです。

山城は観光地が競争する時代から、地域がつながって共に高め合う時代の核になります。

管理者
山城Q

歴史文化フィールドプロデューサー/山城ウェルネス代表/山城ナビゲーター
「山城ウェルネス」自主企画として、西日本を中心に500以上の山城を踏査。
縄張・地形・地質を現地で読み解きながら、山城の魅力と“歩く文化価値”を発信しています。

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