愛知

長篠城(愛知県新城市)|二つの川と、大断層帯のはざまで

山城ACTレベル:初級 ★☆☆
山城Wレベル:W2 ★★☆

長篠城本丸周辺の様子

この山城の魅力|3つのポイント

① 体験価値(ウェルネス)
断崖の縁を歩きながら緊張と解放がゆるやかに切り替わっていく感覚を味わえます。

② 遺構の固有性
深い空堀や土塁がコンパクトに残り、巴城郭や本丸周辺の地形をたどるだけで「長篠の戦い」の攻防線を身体感覚でイメージしやすい構成になっています。

③ 景観・地形の固有性
豊川と宇連川が合流する断崖上の段丘に築かれ、眼下に河川と鉄橋、周囲に小盆地の景観が広がる、「川と断層」を同時に意識できる珍しい平城です。

現地レポート|ルートと見どころ

長篠城巴城郭の空堀
巴城郭周辺の土塁と堀

巴城郭にて、超ピンチ!

全く、前もって理解していなかった点が一つ。かなり楽しみにしていたお城でもあったので、その空堀の撮影に超夢中。実際に見えていたのに、全く気に留めていませんでした。それは、

山城Q
山城Q

線路の存在

長篠城内を横切るJR飯田線の線路

この線路の存在は、「認識」としてはありました。しかし、城内に線路があってもそれは、

山城Q
山城Q

廃線になっているのだろう

と、勝手に思い込んでしまったのです。

こちらの人間ではないので、知りません。特に注意することもなく、カメラ片手に踏み切りに侵入した瞬間、なんと電車が来たのでした。

長篠城付近を走るJR飯田線の列車
JR飯田線

「蛇に見込まれた蛙」とは正にこのこと。反射行動を取る前に、頭の中で理解しようとしたため一瞬、動くことができません。しかし、電車に激しく「警笛」を鳴らされ、

長篠城内の踏切と線路
山城Q
山城Q

間一髪!!!

避けることができたのでした。死ぬかと思いました。ここは、現役の線路です。電車が走ります!

長篠城内の線路と堀の位置関係

ここでも、ちらっと線路が写っています。今、思い出しても汗が出ます。

長篠城の綺麗な空堀

綺麗な空堀です。

巴城郭の堀底と土塁

本丸へはアクセス近し

長篠城本丸曲輪の芝生広場
本丸曲輪から崖方向を望む風景

本丸曲輪は、見晴らしの良い原っぱで、その向こうが崖だとは気が付きません。

「さかさ桑」というのがありました

長篠城跡に残るさかさ桑の木

「長篠の戦いで敗れた武田勝頼が休んだ場所で杖をついたら、桑の芽を出し枝が下に伸びていった。」という、そのような伝説があります。

「真」に天然で出来た堅城だった

長篠城がある場所は、交通の要衝であり、「豊川」と「宇連川」が合流する場所に突き出した断崖絶壁に守られ、段丘を利用した「天然の要害」という点だけではなく、

地下には大断層の中央構造線が走り、近くには、その「中央構造線長篠露頭」が顔を出し、「大花崗岩」帯(領家変成帯)と「泥岩」との「境」に出来た

山城Q
山城Q

「真」に天然出来た堅

橋からの遠望

橋の上から望む長篠城断崖の遠景

この城の概要

長篠城は、豊川と宇連川の合流点に張り出した段丘上に築かれた平城で、本丸・二ノ丸などを配した堅固な構造が特徴です。

天正3年(1575)の「長篠の戦い」では、城主・奥平貞昌が少数で武田軍の攻撃を凌ぎ、設楽原の合戦へとつながる重要な拠点となりました。現在は空堀や土塁が良好に残り、国指定史跡として整備・公開されています。

出典・参照:現地説明板、新城市公式資料、文化庁文化遺産オンライン ほか

山城ACTレベルと山城Wレベル

山城ACTレベル:初級 ★☆☆

城内の高低差は小さく、本丸・二ノ丸・巴城郭を巡っても30分前後のコンパクトな行程です。段丘上の平城でアップダウンは少なく、散策に近い負荷で歩けます。断崖縁や線路付近では注意が必要ですが、全体として歩きやすいことから ACTレベルは初級(★☆☆)と判断しました。

山城Wレベル:W2 ★★☆

豊川と宇連川が合流する断崖上を歩くことで、平城でありながら「谷底が近い」という独特の緊張感が静かに入り込みます。本丸・巴城郭を移動するたびに風や音が変わり、かつての攻防を自然と想像したくなる余韻が残る城です。短時間でも印象が深まりやすいため、W2(★★☆)としました。

主なルート

駐車場 → 本丸 → 二ノ丸 → 巴城郭 → 空堀や土塁を一周(全体でおおよそ30〜40分)

累積標高差と所要時間

累積標高差:公園散策に近い小規模なアップダウン / 所要時間:全体を歩いて約30〜40分が目安です。

地形・地質のポイント

立地を確認

長篠城周辺の地形図
引用元:国土地理院ウェブサイト(当該ページ)を当ブログ管理者Qさんが加筆修正したものである(スマホで拡大可能)
長篠城の位置を示す等高線図
引用元:国土地理院ウェブサイト(当該ページ)を当ブログ管理者Qさんが加筆修正したものである(スマホで拡大可能)

等高線図でその場所を確認すると、長篠城の位置は、交通の要衝であり、「豊川」と「宇連川」が合流する場所に突き出した断崖絶壁に守られたという点だけでも、城としてのポテンシャルの高さが伝わってきます。

山城Q
山城Q

「難攻不落」「天然の要害」

という言葉がぴったりの平城です。

しかし、ここはそれだけではないのです。他に注目するべきことがあります。

注目するべきは、その地下

実は、ここは「中央構造線」の上にあるという点は見逃すことはできません。

長篠露頭の岩盤断面

長篠城近くの「長篠露頭」では、外帯の黒色片岩の上に内帯の花崗岩源圧砕岩が覆いかぶさっている様子をはっきりと見ることができます。中央構造線の基本的な断層の観察には非常に適しています。

この中央構造線は、全長1000キロメートル以上に及び、九州から四国北部を経て紀伊半島を横断し、伊勢湾を横切り、天竜川に沿って北上して、長野県諏訪湖付近で本州の中央部を横切る「フォッサマグナ」とよばれる巨大な地溝帯にぶつかります。(「フォッサマグナ」については、下記を参考)

中央構造線には、ひずみが多く周辺には活断層が多い要注意な大断層なのです。

中央構造線周辺の地質図
引用元:産総研地質調査総合センター,20万分の1日本シームレス地質図V2(地質図更新日:2022年3月11日) より山城渡りQが加筆・修正したものである (スマホで拡大可能)
領家変成帯と周辺の地質区分
引用元:産総研地質調査総合センター,20万分の1日本シームレス地質図V2(地質図更新日:2022年3月11日) より山城渡りQが加筆・修正したものである (スマホで拡大可能)

さらにこの場所は、上部のピンクの部分と下部の青の部分の「境」にあります。

ピンクの部分は、領家(りょうけ)変成帯といい、岩石は高温低圧型の広域変成岩と、花崗岩などの貫入岩(地下でゆっくり冷え固まった火成岩)で構成されています。地質の「境」の城。

長篠城は「二つの川の合流点」と「大断層帯の境界」という、地形と地質のドラマが重なった場所に築かれた城といえます。

アクセス・駐車場

自家用車
国道151号から案内に従えば、長篠城址すぐ横に無料駐車場あり。普通車対応で見学拠点として便利です。

周辺観光・温泉(地域共鳴)

鳶ヶ巣山砦跡にも

現地は、駐車場が無かったので、歩いて行きました。道もあぜ道ですし、歩くにはちょうど良い距離です。

現地の案内看板

鳶ヶ巣山砦跡の大案内看板
鳶ヶ巣山砦跡の小案内看板
鳶ヶ巣山砦跡へ向かうあぜ道

大案内看板の横の小案内看板

段郭や土塁あり

鳶ヶ巣山砦跡の段郭
鳶ヶ巣山砦跡の土塁と曲輪

あくまで砦ですので、規模は大きくありませんが、関係史跡として必見です。

温泉|湯谷温泉
宇連川沿いの静かな温泉地。歩いたあとの身体をやさしく温め、城歩きの余韻をゆっくりと整える時間に。

グルメ|道の駅 もっくる新城
名物・五平餅は、史跡巡りの締めに立ち寄りたい一品。地域の味に触れられる気軽な休憩スポットです。

まとめ

長篠城は、「平城だから楽そう」というイメージとは裏腹に、豊川と宇連川に囲まれた断崖と段丘、そして地下を走る中央構造線という、スケールの大きな地形・地質の上に築かれた城です。

城内の歩行自体は30分前後で無理のない行程でありながら、空堀や土塁、巴城郭をたどることで、かつての籠城戦の緊張感と、現在の静けさのコントラストをゆっくり味わうことができます。

周辺の鳶ヶ巣山砦跡や長篠城址史跡保存館、そして宇連川沿いの湯谷温泉まで足を延ばせば、「川の合流点に築かれた平城」と「大断層帯の温泉地」という二つの顔を一日の中で体験できる、山城ウェルネス的にも満足度の高いコースになるはずです。

免責

本記事は個人の体験および公的資料をもとに構成しています。効果や歴史を断定するものではありません。訪問時は最新情報を確認のうえ、安全にご配慮ください。

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